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 【島の南側をまわる。】 |
目覚めは朝7時。昨夜、冷房は南の島の情緒と合わないと思い、窓を開け放していたので、寄せては返す、さざなみの音を聞きながら、気持ちよく目覚めることができた。窓からは、視界いっぱいに澄んだ水色の海が見えた。少し向こうは群青色で、水平線のあたりからは入道雲が青い空に向かって沸き立っている。季節は秋だが、蘭嶼の太陽は力強く燦燦としていて、水面が反射を受けてキラキラと輝いていた。
まずは、朝食を食べる。
朝食のために、蘭嶼別館の食堂に足を運ぶ。ご夫妻が作られた西洋式の朝食は、地元の方々にも人気のようだ。目玉焼きとベーコンをはさんだハンバーガーは、暖かい台湾式の甘い豆乳と一緒に食べると、格別においしい。豆乳のほどよい甘さが、目覚めたばかりの体にちょうどいい。この宿の主人に、今日は島を一周する予定であることを告げると、雨が降るかもしれないから、雨衣(カッパ)を用意したほうがいい、と教えてくれた。
お弁当として、粽(ちまき)をひとつつみ、食堂のおばさんが作ってくれた。近くの商店でミネラルウォーターと雨衣を購入し、バックパックに放り込んだ。昨夜、東清村のご夫妻(の、娘さん)らお借りしたスポーツ自転車は、変速ギアがついていて、ペダルも軽快だ。ここ、紅頭村は、蘭嶼の西南に位置する。ここから、反時計回りに、島を一周する予定だ。
実のところ、自転車に乗るのは、実に数ヶ月振りだった。風を切る気持ちよさと、懐かしいペダルを踏む感触で、心が踊る。ペダルをこぐたびに、歩くより早く、当然だが前へ進むことに、感動を覚えた。いい天気。「紅頭の村」はすぐに後ろの風景になった。蘭嶼の衛星所という施設を右に通過した。ゴミの処分施設のようなところだろうか。忠愛橋を渡る。右手に、小蘭嶼という島が見える。昔は、神格化されていたそうだ。今では、船でわたれるようで、魚を獲る絶好のスポットらしい。蘭嶼の南端は、青春草原という、花が咲いたきれいな草原になっているそうだ。自転車からは、見えなかった。
核燃料の壁
小蘭嶼の島が右後ろに来ると、さっぱりとした波止場が目に入る。核燃料廃棄施設専用の港。あちこちの岩や、路に、「核反対」と落書きが見られる。警察のような二人が、スクーターに乗っていた。かまわずに波止場へつづく坂道を降りる。きれいな、青い色の海。船は、もちろん来ていない。まだ、使われているそうだ。「禁止」という赤い文字で、ここは許可なく立ち入ってはいけない、といったことがかかれていた。もうしばらくすると、廃棄施設があった。にわかに雨が降り始める。用意していたカッパを着込んだ。しばらく続くコンクリートの壁。島民の同意なく作られた、経済発展の一面があった。島民も、あまり近寄らないらしい。
岩の北側から見ると、複数の竜が空に向かって吼えているように見える、岩。キングギドラのような、竜が岩に埋められて叫んでいるようにも見える。太陽の陰になり、岩が黒く見えるので、より想像力をかきたてられる。波が高くなり、岩が多くなってきた。雨はスコールの様相を見せてきた。
雨は、しばらくするとやんだ。カッパは、暑いので脱ぐ。上半身とバックパックはぬれないが、ジーパンはぬれてしまう。自転車の風と暖かさで、すぐに乾くだろう。
すれ違うスクーターの人や、道を歩く人、芋の畑で作業中の人に、「アクーカイ」と声をかける。向こうも「アクーカイ」と、答えてくれる。農作業の休憩中のオジサンは、中国語が話せた。天気の話などをして、きれいな島ですね、と話すと、笑顔で、ビンローでくろくなった歯でさわやかに笑った。
・ヤギ見かける
ヤギが、多い。ヤギの一家が、道を渡る。黒豚も。ヤギ、豚、白い海鳥、鶏、犬。ヤギは、大きなものもいる。襲い掛かってくるとは思えないが、威風堂々としている。海岸の岩場を、大体、家族か、恋人同士?で闊歩している。岩場の草を食べているようだ。新鮮だ。日本で、道路にやぎが出るところは、そう多くはないはずだ。蘭嶼では、基本的に放し飼いにしているそうだ。野生ではなくて、かならず誰かが「飼育して」いるのだそうだ。竹の木の日かげに3匹で寝ている黒豚の家族を見る限りでは、野生にしか見えないのだが…。蘭嶼の原住民は、互いを信用しあっている。人のものは盗まない。困っていたら助ける。島民は三千人だそうだが、少なくとも私が出会い、知り合えた二十人ほどの人々に関しては、善良で友好的、暖かい人間性を感じ取ることができた。
・ゴミの投棄
環島道路を自転車で走っていると、所々に不法投棄されているゴミを見かける。たいがい、そこには、「ゴミ投棄禁止!罰金はいくらで…」という看板が立ち、あるいは倒されていた。島の生活が今後さらに豊かになれば、ゴミ問題は、ますます深刻化するだろう。海岸の岩場にも、廃車が投棄されていたり、発泡スチロールのようなものが黒いゴミ袋に入れられて捨てられていたり。漂着したと思われる浮遊物も含まれていた。