流々転々ruru-ten-ten
〜ある生産管理の担当日記〜


3.【生産管理のシゴトの流れ】

  作るものを決めてから、製品が倉庫に入庫するまでの様子を、紹介しておこう。

  4月。一年の始まりだ。営業が、関係者を本社ビルに集めて、売上会議を開催する。大々的に、もちを絵に描く。売上確度A、B、Cと分けて、今年は○○が売れる、とか、△△の内示をもらった、ということを、発表する。会議が終わって、営業部門として、私たち生産管理部門に対して、「所要計画」を提出する。この段階では、所要予測は金額で提示されるため、実際には何を作るのかは、明確ではない。

  その次に、その所要計画を参考にして、私たち生産管理部門が、生産計画を立てはじめる。所要計画から、実際に何を作るかを、決める。営業の担当者と、腹を割って話し合う。この製品の売上予想金額、こんなに大きいけど、ここだけの話、どうなのさ、など。おりしも、わが社の製品の納入先の企業「A」は、左肩上がりの状態。余分な生産計画は、立てる余裕は、これっぽっちも無い。場合によっては、内示のあるものしか、生産計画に反映しない場合も有る。そんなこんなで、なんとか、生産計画らしき数字にまとめる。

  作るものが大体決まったら、生産システムに、「フォーキャスト」と呼ばれる、製造予定の数量を投入する。たとえば、6月上旬に、製品「C」を30台作りたいと思ったら、「6/1、C、30」という「フォーキャスト」を投入し、それは工場の生産システムに反映される。「フォーキャスト」とは、あくまでも製造予定数であり、工場にとっては一種の目安になる。

  しかし、この「フォーキャスト」は、お客様の都合などにより、販売予定がなくなった場合には、私たち生産管理の判断で、いきなり消すこともできる。消すと、当然、工場には、ものすごく怒られる。「部材も確保したのに、なぜ消すんだ、馬鹿者!」と。しかしながら、しょうがない。「いらないものは作らせるな!」という上司の主張を、私たち担当者が工場に怒られながら、押し通すという寸法だ。この方法は、大体の数量が分かっていれば、工場側も、2ヶ月もあれば製品を完成できる、と思われていることに起因するのだが、当時は、何とかこのルールを変えたいと思ったいたものである。

  「フォーキャスト」で指定した期日までの期間が2ヶ月を切ると、「フォーキャスト」は、「製造オーダー」に、状態が変更される。この状態になってはじめて、工場に対して製造指示をかけたことになる。たとえば、今が7/1だと、9/1に完成する分のオーダーが、正式に「製造オーダー」になるわけだ。「製造オーダー」になると、もう、取り消しはできない。たとえば、8/1に営業から電話があって、「ごめん、やっぱあの注文、他の会社に取られちゃったから、いらないよ」といわれようものなら、この「製造オーダー」を何とかして亡き者にしようと、必死になる。具体策としては、「延伸」である。つまり、完成期日の先延ばしだ。中間製品という状態であるが、製品倉庫に入庫されない限り、「製品在庫」としては認識されないので、経理上は、在庫は増えないという計算になる。いまから考えれば、工場内の仕掛品の在庫を無視したひどいルールだったと思う。

  逆に、前倒しが必要な場合。「営業による爆弾」が原因だ。常識を持った営業であれば、短納期で納入する必要の有る注文が取れた場合、私たち生産管理に対して、「すみません、短納期なんですが、相談させてくれませんか」と、焼酎ビンの一本でも持ってくるものだが(冗談)、彼らは、何の前触れもなく、注文システム越しに、いきなり短納期の営業オーダーを投入してくる。その挙句に、「お客様の注文ですので、作ってください」と言う。場合によっては、有る程度、フォーキャストが入っている場合があるので、4ヶ月先の「フォーキャスト」状態の生産予定を、繰り上げて「製造オーダー」にしてもらい、工場に対して、製造依頼をだす。(←もう、製造指示ではなくなる)

  前倒しが必要な場合、証拠を残すという意味で、緊急製造依頼レポートを作成する場合も有る。営業に文句をいい、レポートをだせ!というと、担当者ハンコと課長ハンコが押されたレポートが、FAXで送られてくる。それを受けて、私が、また製造依頼レポートに担当者ハンコと課長ハンコを押し、工場側へ送る。それに対して、工場側が、回答レポートを作成し、担当者ハンコと課長ハンコが押されたものが、こちら(生産管理)に戻ってくる。製造依頼レポートという物的証拠を得た工場は、お客様の納期に間に合わせるよう、短手番で生産活動に取り組む。まあ、他社製の特別なモジュールが足りない場合を除けば、最終的には、なんとか出荷できてしまうものである。

  忘れてはいけないのが、「不健全資産への対応」だ。長期間にわたって、倉庫に眠っている製品在庫は、もうこれ以上、売れないだろう、と判断されると、廃却処分を行う。私たちの場合、6ヶ月間眠りっぱなしの在庫を、「不良資産」と呼び、さらに6ヶ月間、つまりは合計1年間眠りっぱなしの在庫を、「不健全資産」と呼んでいる。

  一年に2度、廃却を決定する会議を開催する。「不健全資産対策会議」だ。一年前に、営業が「絶対売れます!1000台作ってください」と言った製品が、諸事情から、売れない場合もあった。しかし、営業が何と言おうと、その言葉の真偽を見極め、実際に製造オーダーを投入したのは、私たち生産管理部門である。不健全資産の廃却は、どことなく悲しく、工場側の製造現場の人たちも、せっかく作ったものを廃却してしまうことに、気持ちが落ち込む。

  まとめになるが、不健全資産を少しでも減らすこと、つまり、不要な在庫をつくらないことが、私たち生産管理部門の重要なミッションである。


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